モバイルゲームは、今や最も人気のあるエンターテインメントの一つです。2021年の1年間で世界の約40億人のモバイルユーザーが800億以上のモバイルゲームをダウンロードしました。つまり、平均20ゲームアプリが携帯電話やタブレットにインストールされたことになります。
意外にも、最近になってようやくモバイルゲームは訴求力の強い、魅力的なメディアチャネルとして認められるようになりました。モバイル端末を所有している人の数、インストールされているゲームの数を考えると、広告主はもっと前からUA(ユーザ獲得)やマーケティング活動の柱としてモバイル端末を据えるべきでした。2021年の実績をみると、プレイヤーはモバイルゲームに1,160億米ドル(約16兆2,715億円)を費やしました。これは映画産業(213億米ドル/約2兆9,877億)と音楽産業(288億米ドル/約4兆398億)の合計額を上回っています。
実際、他社に先駆けてモバイル広告を導入した企業もありましたが、今とはかなり状況が違っていました。インターネットにおける広告の歴史、消費者との接点として飛躍的な成長を遂げる原因となったモバイルの革新的な技術発展、そしてその結果、モバイルゲームが企業にとって有効で必要不可欠なチャネルとなった背景について解説します。
これまでの広告で成功したこと、改善が必要だったこと
動画は数年前まで、最も優位な広告フォーマットでした。未だにそう考える広告主が多くいます。なぜなら、動画はメディア・マーケティングをテレビから更にその先へと拡大する方法と見なされているからです。世界最大の消費者ブランド(P&G、ユニリーバなど)はYouTubeなど動画配信プラットフォームの出現とその人気を受けて、オンライン動画投稿を始めました。今ではテレビ広告と同じ30秒から60秒の動画が従来の視聴者の他に何百万人ものYouTube視聴者にも届くようになりました。
しかしながら、オンライン広告の効果追跡や測定は10年前までは不可能で、広告の認知度や軌跡を把握することは困難でした。ほとんどのブランドが、広告キャンペーンの成否を、実データではなく、結果をみて判断していました。
この状況は、モバイル通信の爆発的な普及により、大きく変わりました。
強力なマシンの台頭
世界中で莫大な数の人が、手のひらサイズのダイナミック広告掲示板ともいえる携帯電話を持ち歩くようになりました。人々は携帯電話で、ゲームを含む様々なアプリ上で時間を費やすようになり、それに伴って動画広告枠がモバイルゲームにも流入してきました。ゲームは、瞬く間にモバイル動画広告インベントリが最も豊富な供給源となり、ゲームでの広告を試そうと思うブランドも現れましたが、ひとつだけ問題がありました。それは、ゲームに対するネガティブなイメージです。
ゲームにリーチ力があるのは明らかでしたが、ターゲット層に合致した視聴者に届いているのか、オーディエンスが拡張されているのかを把握する手段がありませんでした。さらに、IAA(アプリ内広告)を測定する手段がないため、広告が視聴されているのかが不明で、アプリ内広告とモバイルゲーム全般の成果に疑問が残りました。
その後、DSP(デマンドサイドプラットフォーム)やベンダーが登場し始め、様々なデジタルソリューションが提供され、同時期にCNN、BBC、Bloombergのようなブランドがモバイルウェブを広く利用するようになり、モバイルアプリとモバイルウェブの境が不明瞭になりました。多くの著名ブランドが、ターゲティングと透明性の機能が進化し続けるプラットフォームを利用し、質の高いクリエイティブを制作することもできるようになりました。
モバイルゲーム、広告チャネルとして理解され始める
特にコロナ禍前からコロナ禍中にかけてゲームアプリにおけるモバイルアプリ内広告の利点は一段と明確になりました。ゲームは、金融不安、ロックダウン、惨事などの日々のニュースから逃避できる、楽しい場所であるとともに、ブランドにとっても毀損リスクのない安全な環境です。注目すべき点は、非常に多様性に満ちた環境であることです。多くのブランドマーケターにとって大きな発見となったのは、女性の方が一般的に男性よりモバイルゲームのヘビーユーザーであることです。
世界で最も人気があるゲームにもなった、PeopleFunが開発したワードパズルのWordscapesを例に見てみましょう。プレイヤーをみると、70%が女性で、その中でも45歳から75歳が大半を占めています。
オーディエンスの多様性がトラッキングによって証明され、モバイルゲームは、ようやくブランドにとって正当なメディアチャネルとして認められるようになりました。
社交の場からゲームの場へ
もうひとつのハードルは、会社の上層部でした。ゲームのメディアチャネルとしての価値を理解していたのは、モバイルゲームをプレイしていた若い層でした。しかし、意思決定権のある上層部は実績のあるチャネル、特にSNSに固執していました。Facebook、YouTube、TikTokの他に、さらにゲームを利用すべき理由を理解できていなかったのです。
SNSは橋渡しとして機能することができる、との言葉は説得力がありました。
ソーシャルメディアを利用したマーケティングは、実績が証明されており、ユーザーをモバイルゲームへと導く優れたファネルとして機能します。Facebook、 Twitter, Instagram、 TikTokを見て一日を始める人は通常、ネガティブなニュースなど、不安な気持ちになるコンテンツに触れます。その時、SNS上で目にするゲームの広告は、「楽しい場所へ逃避しよう」とのメッセージを発信します。
ゲームは究極のメディアチャネル
モバイルゲームは、幅広いプレイヤーが集うハブであり、最大の目的は「楽しむ」ことです。感情的には、「幸せ」を感じることが目標であり、そしてインタラクティブなゴールは「やりがいと満足」を感じることです。継続的にゲームをしている人は高いエンゲージメントを持っていると考えられ、高確率で広告をクリックするでしょう。例えば、マーケターが渇望する広告視聴完了について見てみると、リワードを獲得するために最後まで見る必要がある動画リワード広告は視聴完了率が高いことが証明されています。
視聴完了率が高いことは、理にかなっています。なぜなら、気持ちが「幸せ」で、エンゲージメントが高く、やりがいを感じ、満足している状況の人が突然広告を目にしてもネガティブな気持ちになることは少ないからです。ゲーム中に満足しているときに、視聴者の注意を引き付けることができるのです。
広告が没入感を壊すようなものではなく、価値があり、広告自体が楽しいものである場合、プレイヤーは広告に対して肯定的な反応を示す傾向にあります。
このように、ゲームはモバイルマーケティングにおいて究極のメディアチャネルです。世界中にいる膨大な数のプレイヤーへのリーチ規模だけでなく、追跡可能性、ユーザーの多様性、そしてプレイ中のユーザーの心理状態もモバイルマーケティングにとって最適な要素なのです。
寄稿者 プロフィール
寺尾 秀憲(てらお ひでのり)
Strategic Partner Manager, Demand, Japan
AppLovin のデマンドチームにて、代理店や広告主のモバイル市場を活用した新しいオーディエンスへのリーチを支援する。AppLovin 入社以前は Snapchat でアカウント・エグゼクティブを務めたほか、Adjust のシニア・パートナーシップ・マネージャーとして様々な業種のパートナーとの関係構築に貢献。2022年9月より現職。