5G時代の到来により引き続き成長するインターネット動画広告市場 〜動画制作と利用の民主化〜
2021.01.26
2022.04.25
ブライトコーブ株式会社
動画配信プラットフォームを提供するブライトコーブ。Brightcove Inc.は、あらゆるデバイスにおける動画の管理、配信、収益化を実現するクラウドソリューションを、グローバルで提供する大手プロバイダーです。
目次
5Gにより拡大を続ける動画広告市場
1982年に公開された2019年を舞台にしたSF映画「ブレードランナー」のオープニングには、高層ビルの側面表示された巨大な動画広告の横を「スピナー」と呼ばれる空飛ぶ車が横切り、近未来を予感させる印象的なシーンがある。バック・トゥ・ザ・フューチャー Part2やマイノリティ・レポートといった有名なSF映画でも、屋外広告に大きく表示された動画は、遠くない未来を予感させた。2019年に開館した渋谷スクランブルスクウェアの巨大サイネージは、既に渋谷の新しい顔になっているが、今や企業広告の中枢は屋外広告ではなく、最も身近な端末であるスマートフォン上のインターネット広告だ。
5Gの普及により「データ容量の無制限化」が進むことで、視聴数が今まで以上に増え、動画市場が更に拡大することで、動画は知らぬ間に生活の至る場所に浸透し、より暮らしに根ざしたコンテンツになるだろう。
5G時代の動画広告手法として、8K画質に期待を寄せる方も多いだろう。NHK放送技術研究所の実験によると、8K画質をディスプレイに映したものと実物を、ほとんどの人が見分けられなかったという。より実物に近い画質を動画で表示することにより、今まで以上のシズル感を演出することができるようになる。
ただし、冒頭に述べた通り、5G時代においても動画広告の主役は消費者の最も身近にある端末だ。データ容量の無制限化により、Wi-Fiが接続されていない環境でも、ギガ死(キャリアによる通信制限)を気にすることなく動画を視聴するようになる。通信量不足を解消するために、スマートフォンの動画自動再生をオフにしている人も多いだろう。この通信制限が無くなることで、動画は生活のあらゆる面に登場することになる。通勤時間、信号やエレベーターなどのちょっとした待ち時間、トイレの中などでスマートフォンを見る人は多いが、このような日常に動画広告がディスプレイ広告に代わり入り込んでくる。それによって急激に増大する動画視聴データの重要性が、5G時代においては急速に増していくことが予想される。
動画広告に固有の評価指標とは
動画マーケティングにおいてはインプレッション数や再生数、また、動画広告においてはクリック数を評価指標に置いている企業は多いだろう。動画視聴に関するデータは、Webアナリティクスやテキスト広告、静止画広告などに比べると、そのデータ量の少なさから注目度は高いとは言えなかった。しかし、インターネット動画には「視聴時間」や「完視聴率」などの、時間を軸にした固有の評価指標が存在している。この評価指標は、顧客のパーセプションを理解する上で貴重な指標と言える。なぜなら、「視聴時間」や「完視聴率」が高いほど、顧客エンゲージメントが高いと言えるからである。たとえば、少し前からB2B企業でホームページに動画を公開している企業が増えているが、どのくらいの方が、企業が公開している動画を見たことがあるだろうか。おそらく、通常の読者はないだろう。あるとすれば、何らかのサービス導入を考えている企業の担当者が、選択肢を絞り込むために、動画を見ているという場合がほとんどだろう。そして、その動画を見ている人を特定できたら、より洗練された情報をインサイドセールスに渡すことができるようになってくる。
インターネットの世界で時間があるコンテンツが2つある。それは、音楽と動画である。この時間がもたらす動画の「視聴時間」や「完視聴率」が、今後急速に拡大する動画広告マーケットにおいて、顧客エンゲージメントを読み解く重要な指標となるのだ。5G時代の到来により、動画広告に接することが多くなり、動画視聴データは市場の拡大と共に増加していくことから、そのデータの価値は以前にも増して重要視される。そして、動画広告の領域においては、データこそが最も大きな変化を促すものとなるだろう。
動画広告配信の課題、「制作コスト」と「制作スピード」
当然のことながら、5Gがインパクトを与えるのはインターネット動画だけではない。5Gの普及により人々は常時インターネットに接続することになる。IoTや電子決済の普及により、オンラインとオフラインの境界は今以上に無くなっていくだろう。そして、動画視聴データを含む、これら顧客行動データを持つ企業は、よりターゲティングした動画広告を配信できるようになり、市場で優位に立つことができるようになる。逆を言えば、広告主は顧客属性やステージによって、動画を用意する必要があることを意味する。そして、静止画の広告(ディスプレイ広告)運用と同様に、作成した動画は設定した評価指標(KPI)と動画視聴データを元に改善していく必要がある。たとえば、ある5分間の動画を用意したと想定した場合、その動画の「視聴者数」が3分前後で大きく落ち込んでいたとする。その場合、なぜ3分前後で落ち込むのか、データを見ながら検証し、PDCAを回しながら、動画を制作していくことになる。そこで課題となるのが動画の制作コストと制作スピードだ。
映像制作に必要となる機材やソフトが低額化し、映像クリエイターも増えたことから、動画制作コストは数年前に比べると安価になった印象はある。ただし、静止画と比較した場合に制作コストが高額なのは否めない。5Gの普及により、よりターゲティングした動画広告を高速に配信することが出来たとしても、ROIが合わなければ動画広告に投資することはできない。また、評価指標をもとに動画広告のPDCAサイクルを回す場合も、クリエイティブの改善に時間やコストが掛かってしまうとスピーディーな対応ができない。つまり、5G時代においては、今以上に高速かつ低コストで動画を量産する必要がある。
誤解を避けるために予め説明すると、5G時代にはリッチなクリエイティブが不要と言っている訳ではない。リッチなクリエイティブは見る人の目を引きつけ、感情を動かすことができるため、5G時代にも必要となる重要なコンテンツだ。ただし、4Gが普及した時代からスマートフォンやSNSの普及によって生活者の行動は多様化し、従来のテレビCMのようなマスマーケティングだけでは難しい時代になっている。3rd party cookie制限により、これまでインターネット広告が得意としていたターゲティングが今後難しくなる可能性はあるが、1st party cookieを持つことから比較的制限の影響を受けにくいと言われるSNS一つとっても、Facebook・Twitter・Instagramなど様々なプラットフォームが存在する。それぞれの特性を生かしたクリエイティブを用意する必要があるうえ、広告の利用用途によって16:9・1:1・4:5など多数のアスペクト比(画面のサイズ)を考慮し、動画尺などと併せて動画を最適化する必要がある。動画マーケティングや動画制作において、プラットフォームや端末、顧客ステージに合わせたクリエイティブの多様化やコストの最適化が、これまで以上に必要となっていくのだ。
事例から見る低予算で動画を量産し、スピーディーにPDCAを回す方法
例えば、楽天トラベルでは2019年9月〜2019年12月にモーショングラフィック(YouTubeの動画再生前や再生途中に流れる、静止画素材やテキストに動きと音声を加えた動画広告)を毎月2本〜10本制作し、複数の媒体で動画広告を運用した。このキャンペーンでは同社が動画を制作するうえで、広告代理店や動画制作会社は介在していない。「KAIZEN Ad」と呼ばれる動画制作プラットフォームを利用することで動画を量産し、各種媒体先における動画広告の最適化を実現した。このプラットフォームでは、動画制作をクラウドソーシングにより定額で依頼できるうえ、納品日を予め確認することができる(最短5日で納品)。楽天トラベルは、このプラットフォームを利用し動画を量産し、PDCAを回すことで、表現方法やコピーの成功パターンを見出すことができたという。サブスクリプション化の波は、動画制作市場においても5G時代の到来と共に、ビジネス変革を起こそうとしている。
一方、株式をはじめ、投資信託やFX、CFDなどを取り扱う岡三オンライン証券は、動画編集クラウドを活用することで、内製による動画の量産を行っている。同社では「Video BRAIN」という動画編集クラウドで、投資情報の解説動画や、広告動画を中心に一ヶ月40本以上制作しているという。Video BRAINには、用途に応じた動画テンプレートが予め用意されており、未経験者でもAIのサポートにより数分で動画が制作できる。訴求内容を一番理解している担当者自身が動画クリエイティブを内製することで、オリエンなどの工数が削減できるのが同サービスの強みだ。同サービスの導入することにより、動画制作のハードルが下がり、以前から取り組みたかったYouTube上の動画広告強化を始めることができたという。また、その結果、従来のYouTube広告経由と比べて口座開設がおよそ3倍に増えた。
プロフェッショナルが利用する高額な動画編集ソフトや、それらを利用するスキルを持つ人材がいなくとも、動画を制作できる時代が既に来ているのだ。
(【Video BRAIN 制作事例】商品/サービス紹介_1_岡三オンライン証券株式会社より)
両社の事例に共通しているのは、実現方法は違えど、少人数かつ低予算で動画を量産し、スピーディーにPDCAを回している点だ。動画の種類や利用方法によっては、上記もしくは類似するサービスやテクノロジーを利用することで、安価で高速に量産することができる。つまり、今や動画制作は潤沢な広告費を持つ企業のものだけではなくなっている。「動画制作と動画利用の民主化」はすでに現実のものとなっており、動画マーケティング担当者は、これらや従来の手法を駆使して、広告運用の最適化を実現することが求められるだろう。
動画広告利用の注意点
一方で、動画広告はテキストやディスプレイ広告に比べて、不快に感じる視聴者が多いことで知られている。ジャストシステム社の調査「動画&動画広告月次定点調査(2020年2月度)」によると、日本において31.6%の視聴者が動画広告を「不快に感じることがある」と回答している。これはテキストの21.4%、ディスプレイの27%に比べて高い割合だ。不快に感じる上位3つの理由は、「コンテンツの視聴をじゃまされる」、「広告スキップできないことがある」、「他のことをしている最中に突然表示される」だ。2020年2月5日に、GoogleがChromeブラウザで5秒以内にスキップできないプレロール広告など3種類の動画広告をブロックすると予告したことは記憶に新しい。また、広告ブロックとプライバシー保護が売りの次世代型ブラウザ「Brave」が日本にもローンチした。日本広告主はこれまで以上にブランディングを損なわないクリエイティブの設計や、プラットフォームの選定が必要になるだろう。
これまで、動画広告は動画マーケティングにおいて、最も重要なファクターであった。そして、5G時代においても市場規模は大きくなることが予想され、重要なファクターであり続けるであろう。しかし同時に、「5Gの普及」と「動画制作の民主化」により、広告以外の動画利用も注目されることも予想される。上記で紹介した事例に利用されている両サービスにおいても、動画広告だけに限定した利用ではなく、その他動画コンテンツの制作にも利用されることが多いという。具体的には、自社SNSやオウンドメディアにおける動画や、トレーニング、How To動画などだ。5G時代において動画マーケティング担当者は、広告を含むマーケティング活動全体で、動画制作と利用を最適化するスキルや知識を幅広く求められることになるだろう。
著者プロフィール
ブライトコーブ株式会社 マーケティング マネジャー 大野耕平
大手独立系Slerにてソリューション営業を10年経験後、2016年にブライトコーブ入社。
3年間の営業職を経験した後、19年より現職。様々な角度で企業における動画活用の啓蒙に注力し、様々なイベントやメディア取材で講演をしている。
また、日本における大企業内での社内広報や従業員エンゲージメントにおける動画活用の提案も多数実施している。
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