日本の雇用の課題を解決したいという思いから、企業の人事採用においてオウンドメディアリクルーティングの取り組みを推進しているIndeed Japan。
2022年にはショートショート フィルムフェスティバル & アジアによるブランデッドムービーの祭典『BRANDED SHORTS 2022』に参画し、「HR部門 supported by Indeed」を新設。オウンドメディアリクルーティングの手段の1つとして、HR領域でのブランデッドムービー活用の必要性と可能性を広める活動を開始しました。
企業の採用にとって、ブランデッドムービーを含むオウンドメディアの活用がなぜ必要なのか。オウンドメディアを活用することによって、人事採用はどう変わるのでしょうか。
今回は、Indeed Japan株式会社マーケティングディレクターの水島剛氏に、企業が採用にオウンドメディアを活用することのメリットや変化、活用する際のポイントから人事採用の今後に対する思いまでお聞きしました。
<インタビューにご協力いただいた方>
Indeed Japan株式会社
マーケティングディレクター 水島剛 様
シニア PRマネジャー 吉村咲紀 様
目次
ブランデッドムービーの活用が人事採用にもたらす変化とメリット
企業と求職者 双方のミスマッチを無くす
―― ブランデッドムービーの活用は、人事採用にどういった変化やメリットをもたらすのでしょうか。
企業文化やミッション、働いている人たちの雰囲気といったジョブディスクリプション(職務記述書・求人票)に描きにくい部分を、ブランデッドムービーを用いて伝えていくことで、企業と求職者双方のミスマッチを無くすことができます。求職者は「自分とマッチする企業」、企業は「自社にマッチする、求める人材」に集中してリソースを割くことができるようになる、ということが大きなメリットです。
企業側としては、「企業の文化」「ミッション」「働いている人たちの雰囲気」といったジョブディスクリプションだけでは伝えきれない部分の会社の魅力を、ブランデッドムービーを通して伝えることができます。
会社そのものの魅力や特徴が伝わることで、会社のカルチャーにマッチした人材やビジョンに共鳴してくれる人材が応募してくれるようになり、より自社に合った候補者との面接に時間を割くことができるようになります。
一方求職者は、ブランデッドムービーを通して、ジョブディスクリプションの情報だけではわからない企業の文化や雰囲気を事前にイメージしやすくなります。その上で、自分が本当に働ける・活躍できる企業だけに応募先を絞ることができ、不必要に多くの面接を受ける必要がなくなります。
結果的に、面接の段階になって初めてミスマッチが発覚するということを減らすことができるので、事前にある程度マッチングできた状態で面接を迎えることができるということです。
ある程度マッチングが出来ていると、面接から採用、採用の受け入れ、実際の入社までの歩留まりが改善されるという、双方にとって非常に良い流れができていく点は大きなメリットであり、有効な良い変化だと考えています。
企業と人材が接触する機会を作りやすい
動画という形で企業の魅力を伝えていくことは、メディアやコンテンツの流通という観点から見ても大変便利な手法だと思っています。
ある企業へ応募する場合、応募者の約8割が企業の採用ホームページへ自ら情報を取りに行きますが、ブランデッドムービーの形態であれば、ソーシャルメディアやいろいろな形でシェアされていく。企業の情報は必ずしも採用ページを訪れた人だけが目にするものではなくなります。
そうすると、「ジョブディスクリプションでマッチしないと思っていたけれど、今自分が持っているスキルが活かせる環境があるのかもしれない」「業界が違うことで検討もしていなかったけど、自分のこういった部分を活かして働けそう」といったように、企業はそれまで隠れていたマッチする人材と接触できる可能性が増えます。
潜在的なマッチング度の高い人材と接触する機会を作るという意味においても、ブランデッドムービーは優れた有効な手段だと考えています。
“就社”会社に所属してもらうからこそ事前の相互理解の機会を増やす
―― 会社の雰囲気のような、実際に入社するまでわからない部分を事前にイメージしやすくなることは、求職者が会社を選ぶ際の良いポイントになりますね。
そうですね。人は職と会社の両方を見て働く場所を考えますから、重要なポイントになると思います。
「就職」「就社」という2つの概念があるとすると、就“職”という面では求められるものが明確でわかりやすいです。求める職能、経験、さらにポジション、ロールアンドレスポンシビリティまで丁寧に書かれています。
もう一方の側面として就“社”があります。文字通り企業に所属するわけですね。同じジョブディスクリプションであっても、Aという企業で働くこととBという企業で働くことでは、どうしても職場環境が異なりますし、その人に合った職場に出会えるかという点は非常に大きな部分です。
人は職と会社の両方を見ながら自分が働く場所を決めるので、会社という部分の理解を深めてもらうという意味でも、ブランデッドムービーは良い効果を生んでいるのではないかと思っています。
人事採用でブランデッドムービーを用いる際の「会社の魅せ方」
社員一人一人が制作者 等身大の姿を見せる
―― 人事採用でブランデッドムービーを活用する際の、会社の魅せ方のポイントはあるでしょうか。
優れた動画コンテンツには、「映像美」として優れたものという観点と、もう一つ「その動画が持つ目的をきちんと果たせるか」という観点があると思います。
映像美はクリエイティブの領域なので具体的なお話は出来ませんが、動画の目的を果たすという観点で話をすると、できるだけ会社の等身大の姿が求職者に伝わるように制作することが一つのポイントだと思っています。そのためには、一番会社を理解している、その会社で働いている人事や時には社員が積極的に参加して、自分たちが手作りで作っていくこと。そして等身大の会社の姿を見せていくことが非常に大切です。
映像作品という点では、演出上のテクニックで本来の会社の姿より優れているように見せたり、著名なクリエイターに依頼して丸々製作して貰ったりということも確かに可能です。しかしそれでは企業のありのままの雰囲気を伝えることができない。結果的に、動画を作成したのに人材のミスマッチは解決されない、という事態につながってしまいます。
ですから、優れた映像作品を作るということよりも、社員一人一人が等身大で魅力を伝えていくことにフォーカスする必要があります。
「自分たちの会社の本質的な魅力はこういうところです」ということを、一緒に働く仲間に対して伝えていく。採用担当者や広報担当者、そして社員一人一人が関与している意識を持って雰囲気を作り、映像制作に関わっていくことが重要であると思っています。
ブランデッドムービーの人事採用での活用事例
―― 人事採用でブランデッドムービーを用いたことによる成功事例、または効果があったといったお話はありますか。
具体的な事例としてお話しすることは難しいですが、色々な人事の方のお話を聞いている中で多く聞くのは、面接に来てくださる方のきっかけとして動画(ブランデッドムービー)を挙げる方が非常に多くなったということと、動画によって応募者そのものが増えた、というものです。
やはり、ジョブディスクリプションだけでは見えない会社の雰囲気や職場環境といったありのままの姿を伝えることが、応募者の母集団形成に良い影響を与えている場面は多いと皆さんの声を聞いて感じています。実際に、応募者が増えたというお話に加えて、それまでの求職者の傾向とは異なる業種や企業からの転職者の応募が増えたという声もあります。
求職者としては、例えば美容業界であれば「美容業界は美容業界の人が興味を持つものだ」「美容業界出身ではないと受けてはいけないのではないか」といったイメージやマインドセットがされていると思います。
そういった意識を持っている方に対して、たとえ別業界の出身者でも、あなたのこういった部分を活かせますよ、実際にこのような人が活躍していますよ、というメッセージを発信することで、求職者のダイバーシティも獲得していける。こういった話はよく聞きますし、ブランデッドムービーをうまく活用できている例だと思います。
ブランデッドムービーの制作において重要なこと
抱えている課題と動画制作の目的を明確にする
―― 企業のブランデッドムービーを見て、ストーリー展開など参考になる作品だなと思われたものはありますか。上手く活用できていると感じる動画はどんなものでしょうか。
企業の課題とソリューションがマッチしているものを見ると、非常にうまく制作された作品だなと思います。
そのような作品を作るには何が必要か。
まず、企業が人事採用において「何を目的として作るのか」「目的のために解決すべき人事採用上の課題はなにか」「解決するためには自社をどう伝えるのが良いのか」ということをきちんと理解している必要があります。
マーケティングと同じように、人事採用にも多くのファネルが存在すると思うんですね。企業を認知してもらう、興味を持ってもらう、説明会や企業サイトを見てもらって実際に応募したり、面接を受けてもらう、採用されて働く、働き続ける。どのファネルに課題があるのかという部分は企業によって違います。
解決したい課題によって、動画で何を伝えるべきか、会社のどの部分を見せていけば良いかが変わってきます。
例えば、認知度の高い有名企業で1万人の応募者がいるとしても、実際に受からせることができるのはそのうちの1%のみ。本当であれば会社に合う2000人程の人材だけに応募してほしいのに、現状では1%に絞る前のスクリーニングに人件費がかかってしまっていることが課題であることもあります。一方で、5名を採用できれば良いけれど、3名しか応募が来ず、応募数が足りないということが課題の企業もあります。
さらに、応募という入口だけではなく、採用後に課題がある場合もありますね。例えば、応募も多数あり、実際に入社してもらった人も多いけれど、定着率が低いというような場合です。
この人事採用の最初から最後までのどこのフェーズに対して焦点を当て、そのフェーズの課題に対してどういうムービーが適切なのかが考えられており、課題とソリューションがマッチしているものを見ると非常に上手いなと感じます。
人事採用にもマーケティングのアプローチを
もう一つ重要なのは、来てほしい人材へのアプローチの仕方です。
実は最近では、マーケティングをしていた人が人事の責任者となり活躍している、という事例が多くなっています。その背景には、採用というものが全社的な経営課題になっていること、その中で求職者に対するコミュニケーション設計では、マーケティングのアプローチが人事採用にも使えるのではないかという考えが出て来た、ということがあります。
求職者に対してのコミュニケーションの中で、どういう人材を獲得すべきかという、求職者のペルソナを描いていき、そのペルソナに対するアプローチを考えていく。これはマーケティングで言うところの、商品を買ってもらいたいユーザー像のペルソナがいて、そのペルソナに対して適切なコミュニケーションをとる、というアプローチ戦略と同じです。 ブランデッドムービーを制作する場合も、どういった人材に向けて何を伝えるのかというコミュニケーション戦略の構築が重要だと考えています。
オウンドメディアリクルーティング 能動的な採用の必要性
―― オウンドメディアが採用における主流な手段になることによって、今後の採用・社会はどのように変化していくのでしょうか。
オウンドメディアリクルーティングの一つの大きなメッセージとして、外部委託などの受動的な採用ではなく、今後は企業が主体的に求職者にアプローチしていくべきである、というメッセージがあります。
採用というものが経営課題として重要視されていく中で、企業が能動的に発信をしていくことは非常に重要になっていくと考えています。
オウンドメディアを通して求職者と能動的なコミュニケーションをとるには、まず企業や社員が会社の魅力をきちんと理解している必要があります。「オウンドメディア」には社員も含まれるんですね。外に向けて発信するものでありながら、実はインナーブランディングも大変重要な要素であることも理解していなければなりません。
社員をオウンドメディアとして活用するリファラル採用
採用の一番コアになるのはリファラル採用だと思っています。リファラル採用は、社員をオウンドメディアの一つとして活用する採用手法であり、オウンドメディアリクルーティングの一種であると捉えています。リファラル採用(社員活用)の次に、WebサイトやSNSなどのオウンドメディアの活用、さらに足りない部分はペイドメディアを活用してリーチを広げていく。
リファラル採用で全ての採用ニーズを満たせれば、小規模な企業にとってはある意味理想的な状態かもしれませんが、大きめの企業にとっては現実的にはリファラル採用だけで採用人数を達成することは難しいでしょう。また、ダイバーシティという観点でも社員からの情報発信だけでは偏りが生まれる可能性もあります。
そういった時に必要なのが、WebサイトやSNSといった自社で管理ができるオウンドメディアを活用して情報発信をしていくことであると思っています。
オウンドメディアとブランデッドムービーの関係性
オウンドメディアとブランデッドムービーをどう掛け合わせるか
―― オウンドメディアとブランデッドムービーの使い分けや相互の連携方法などはありますか?
オウンドメディアに載せるコンテンツの一つがブランデッドムービーであると捉えています。それぞれが別々のものとして存在するのではなく、オウンドメディアの一つとしてブランデッドムービーがあるというイメージです。
場合によってはペイドメディアにブランデッドムービーを出していくという活用の仕方もありますが、基本的にブランデッドムービーはオウンドメディアに載せるコンテンツだという考えです。
会社のコアは「人」
―― オウンドメディアを活用した積極的な人事採用は、採用の課題解決という側面からも今後より多くの企業が取り組むべきだと思われますか?
そうですね。やはり自分たちの会社の中心となる「人」を採用するということに関して、企業がもっと積極的に関与していくことが重要だと思っていますし、その手段としてオウンドメディアは非常に有効であると考えています。
会社の一番コアにあるのは人です。オフィスがなくなっても会社は会社として存在することができますが、人が居なくなってしまえば会社は存在することができません。人が会社を作っているとも言えます。
その「人」の採用から働く環境の整備といった採用や人事の機能が、会社の本当にコアなファンクションであると考えています。
だからこそ、人材の最初の入り口である採用というものに対して企業がもっと主体的に、能動的に取り組むことが大事なんですね。自分たちでコントロールできるオウンドメディアは一番効率的なメディアですし、だからこそオウンドメディアリクルーティングを色々な企業がもっと積極的にやっていく必要があると思っています。
経営者から社員まで 会社全体で採用に関与する
オウンドメディアリクルーティング、ひいては人事採用という部分でもう一つ大事なことは、経営者がきちんと人事採用に関与していくということ、さらに社員全員が採用に関与するということです。
会社規模にもよりますが、例えば最終面接は必ず経営者が面接者と会う、というように、経営者も必ずコミットする。そして社員も、一人ひとりが会社のことを外部に伝えたり、ブランデッドムービーに参加して魅力を伝えるという一躍を担ったりなど、会社のコアである「人材」一人ひとりがきちんと関与していくことが何より重要だと考えています。
繰り返しになりますが、オウンドメディアリクルーティングは社員全員が会社の良さや魅力を理解していなければなりません。人事採用を通して社員一人ひとりが自分の会社の魅力に再度焦点を当てる、それがオウンドメディアを通して伝わっていき、さらに次の人事採用に活かされ、マッチした人材が集まる、という好循環が生まれる。こういった良い流れの中にも、オウンドメディアリクルーティングが重要である理由があると思っています。
日本の雇用の課題と未来に対する思い
―― Indeedとして、そして水島さんがオウンドメディアリクルーティングの必要性を考え出した過程やきっかけはありますか?
考え方自体は僕自身が最初に発想したものではないのですが、まずマーケティングの領域においてオウンドメディアマーケティングという考え方がありました。マスメディアを中心とした広告での一方向のコミュニケーションが中心だったところからデジタルの時代に突入し、ペイドメディア、オウンドメディア、アーンドメディアというトリプルメディアが大事だという考え方へと変わっていったんです。
時代がデジタルへ移り変わる中で、人材業界においても同様のことが起きていました。企業の一方向の広告を受け取るのではなく、求職者が自発的に企業の情報を収集するようになっていたのです。求職者の情報感度が高くなり、欲しい情報は企業のオウンドメディアに行って自分たちで収集する、という流れが起きていたのです。
この流れの受け皿となるのがオウンドメディアですから、オウンドメディアをリッチなものにしておかなければ、そういった情報感度が高く自発的に求職活動をするような人に適切なアプローチができないだろうと。
このような発想から、Indeedとしてオウンドメディアを中心としたリクルーティングを推進していく必要があるという思いで活動をしています。
吉村氏:2018年から活動を続けていますが、Indeedが採用サービスを提供している会社として日本の雇用の社会課題を解決していきたいと考えたとき、課題として上がったのが「雇用のミスマッチ」があるということです。
雇用のミスマッチとは、企業側は「企業が求める人材が来てくれない」、求職者は「行きたい企業に採用されない」といったミスマッチもあれば、採用後に「入社前に考えていた仕事と実際の仕事が違っていた」という理由から早期離職につながってしまう、といったミスマッチもあります。
この問題を解決したい。そう考えたとき、求職者側のリテラシーが上がり自ら情報を取りに行くという流れになっている中で、日本の企業に必要なのは「もっと自社の魅力を定義して積極的に情報発信していくこと」ではないか、ということでした。
そういった人材に自社を見つけてもらうためにもっと企業が積極的に情報発信をしていきましょう、その必要性を日本のあらゆる企業に伝えていこうという思いでスタートし、活動を続けています。
今回のインタビューを受けて
今回のお話を伺い、人事採用はどちらか一方が選ぶという形ではなく、企業と求職者双方が同じ価値観や目線を持ち、互いが未来に向けて共に働けるパートナーを探す活動であると感じました。
人事採用がパートナー探しであるとすると、求職者だけでなく、企業も自社のありのままの魅力を積極的に発信していくことが、会社をより良く成長させるための必要なプロセスなのではないでしょうか。
Indeed Japanさんの活動は、今後の日本企業の飛躍を応援する素敵な取り組みであると感じました。
この度は貴重な機会をいただきありがとうございました。
水島 剛氏 プロフィール
Indeed Japan 株式会社 マーケティングディレクター
2004年、米国ボストン大学学士号取得。05年博報堂入社、戦略プランーとして様々な企業サービスのマーケティング課題の解決業務に携わる。15年LINE株式会社入社、「LINEバイト」「LINE Pay」のマーケティング責任者として戦略立案から実施実行まで全プロセスをリード。18年2月より現職。
BRANDED SHORTS 2023作品募集中
ショートショート フィルムフェスティバル & アジアでは、企業や団体による、「広告」という枠を超えた、自らの社会的価値(生活者へのサービスやプロダクト、体験の訴求)を伝えることを目的としたブランデッドムービーを募集。8つの視点(必然性、認識変化力、シェアラブル、メッセージ力、視聴維持力、オリジナリティ、時代性、視聴後の想起力)で選定。広告・映画業界など多彩な業界から審査員を迎え、最も優れたブランデッドムービーを「Branded Shorts of the Year」として表彰します。
今年新設のHR部門 supported by Indeedでは、ブランデッドムービーの中でもHR・人事・採用の視点を持つ作品を募集しています。