2026.07.21
2026.07.21
株式会社オプト
目次
近年、デジタルマーケティングを取り巻く環境は、劇的に変化しています。テクノロジーの進化により生活者が接する情報量は爆発的に増加しました。その結果、「情報を届ければ、購買行動やファン化につながる」というアプローチは通用しづらくなっています。デジタル空間におけるユーザーとの接点づくりは激化の一途をたどっており、従来型のプロモーション手法だけで持続的な成長を描くことへの限界を感じているマーケターも少なくありません。
こうした背景から、いまデジタルマーケティングの主戦場は、Webサイトやアプリケーションなどを通じて顧客と長期的な関係を築く「線」のコミュニケーション、CX(顧客体験)の最適化へとシフトしています。
しかし、その現場でも新たな構造的課題が生まれています。これまで多くのデジタルサービスは、ユーザーの不便やストレスを減らす、「便利さの追求」を一番の目的にしてきました。その結果、かつてユーザーが抱えていた「不便」の多くは解消され、世の中はとても便利になりました。しかし「便利さの追求」が行き着いた先にあるのは、サービスの同質化(コモディティ化)という現実です。
さらに、この流れを加速させているのがAIの急速な普及です。AIを使えば、「使いやすくて論理的に正しい仕組み」は、誰でもすぐにつくれる時代になりました。つまり、機能的優位性だけでは持続的な競争優位になり得ません。“ただ便利なだけ”のサービスやマーケティング施策は、容易に模倣され、市場の海に埋もれてしまいます。
だからこそ、これからのデジタルマーケティングが目指していきたいのは、「役に立つ」「便利さ」というレベルを超え、ユーザーの情緒的側面に訴えかけて「使う人の心が動く体験」や「ブランドへの愛着(情緒的価値)」を形成することです。「便利だから使う」だけでなく、「なんだか好きだな」と感情的なつながりを感じてくれる存在になること。この「情緒的価値」の設計こそが、競合に模倣されない唯一無二の差別化要素であり、顧客と長期的な関係(LTVの向上)を築くための鍵となります。
ではユーザーからの「愛着」や「情緒的価値」は、どのようにして生み出されるのでしょうか。ここで注意が必要なのは、安直に情緒的価値に傾斜しすぎてしまうことです。情緒的な仕掛けに富んでいても、肝心のサービスが使いにくければユーザーは離れてしまいます。次世代のCX開発に求められるのは、性能や便益に基づく「機能的価値」と、感情や心を動かす「情緒的価値」を調和させることです。ストレスなく直感的に使える「機能性」という土台の上に、使うたびに愛着や心地よさが醸成される「ときめき(情緒)」が乗る。この両軸が揃って初めて、ユーザーとの強固な結びつきが生まれ、長期的な関係構築が可能になります。
従来型のサービス開発は、ユーザーの課題や不便をいかに効率的に解消するかというアプローチが主流でした。しかしこれからの時代は、ユーザーの心が豊かになる瞬間を体験にどう組み込むかという設計思想への転換が必要です。
そして、この「機能性と情緒の調和」を形にするためには、開発のプロセスそのものも見直さなければなりません。なぜなら、ユーザーの感情は、机上の論理や事前の市場調査だけで完璧に予測できるものではないからです。
競合に模倣されない次世代のCXを生み出す大切な要素の一つに、開発体制があります。戦略のプランニングから、UX/UIデザイン、システム開発、そしてリリース後のグロース(運用・育成)にいたるまで、各工程を分断させず、一貫した体制で仮説検証(アジャイル開発)を高速に繰り返すことが大切です。さらに、机上の計画だけで終わらせず、ユーザーのインサイトを深く探求し続け、変化に合わせて体験を研ぎ澄ましていく。この開発体制と開発プロセスそのものが、簡単には真似されない「自社ならでは」次世代のCXを生み出します。
機能性と情緒を両立させ、顧客との結びつきを強化した具体的な事例を見ていきます。
1955年に熊本で誕生し、東京へ豚骨ベースのラーメンを広めたことでも知られる老舗チェーン「桂花拉麺株式会社」のLINEミニアプリにおける取り組みです。創業70年を超え、多くのファンに愛され続ける同社ですが、デジタルでの接点づくりにおいては、ひとつの壁にぶつかっていました。
桂花拉麺には「店舗にいない日常の瞬間にもブランドを想起してもらい、ファンとの絆をより強固にしたい」という明確な意図がありました。しかし、一般的な飲食店のアプリと同様、会員証やクーポンが主な機能だったため、「お客さんがお店に来た限られたシーンでしかアプリが開かれない」という課題がありました。
そこで着目したのが、常連客に長年愛され続けてきた公式キャラクター「桂花ボーイ」を活用した情緒的なコミュニケーションの実装です。LINEミニアプリを開くと桂花ボーイが「夕方の一杯、ラーメンどうばい?」「月曜日の朝、無理せんと、頑張ろうばい!」といった、ブランド誕生の地・熊本の方言を交えた温かいメッセージでユーザーを出迎えます。
時間帯や曜日に応じたこのさりげない寄り添いは、会員証やクーポンといった「便利なツール」から、ユーザーの心とお財布に寄り添う「愛着のある存在」へと昇華させました。
この情緒的価値の設計がもたらした成果は、数字にも表れました。月10回以上アプリを起動するユーザーが全体の80%を超え、クーポンの利用率も84%を達成。来店数や売り上げの増加に貢献し、LTVの向上に寄与しています。さらに、桂花ボーイから贈られる励ましのメッセージはSNSでもユーザーに自然に拡散され、キャラクターを介した情緒的価値がユーザーとの結びつきを強化することを実証しています。
機能的な利便性の土台の上に、独自の情緒体験を調和させたことで、他社には模倣できない持続的なエンゲージメントを生み出した事例となりました。

情緒的価値のアプローチは、「分かりやすい演出」だけにとどまりません。「使いやすさを極限まで磨き上げることで、安心という心地よさを届ける」という手法もCXデザインのひとつです。その代表的な事例「タリーズコーヒージャパン株式会社」のモバイルオーダーLINEミニアプリにおける取り組みを紹介します。
タリーズコーヒージャパンは従来「タリーズコーヒー公式アプリ」を通じたモバイルオーダーを展開していましたが、アプリのダウンロードや会員登録といった手続きが、初めて利用するユーザーにとって心理的なハードルとなりやすくその後の継続的な利用やデジタル上の接点づくりが課題となっていました。また、注文・決済・商品受け取りという一連の流れが複数のアプリをまたいで分断されており、ユーザーが操作に迷ったり、体験が分断されたりという課題もありました。
オプトが着目したのは、日本国内で圧倒的な利用率を誇り、新たなインストールを必要としない「LINEミニアプリ」として設計することです。初期の利用ハードルを大幅に引き下げ、より幅広い層のユーザーとの日常的な接点を創出しました。開発のテーマに置いたのは「ユーザー目線でのUXジャーニーの設計」です。操作時の迷い、注文から決済・受取までの間にユーザーが感じやすいストレスポイントを徹底的に洗い出しました。そのうえで、視認性の高い店舗検索、直感的なメニュー配置、クレジットカード決済からPayPay・d払い・楽天ペイなど多様な決済手段に対応。さらに商品完成をLINEのサービスメッセージで通知する仕組みも実装。「選ぶ・払う・受け取る」という全工程をLINEひとつで完結させるシームレスな設計を実現しました。
ここで重要なのは、この徹底した使いやすさの追求が単なる機能改善にとどまらない点です。ストレスを感じない・迷わず安心して使えるという体験の先にあるポジティブな感情こそが、継続的な利用定着とブランドへの愛着形成につながります。機能的便益を磨き上げることで、結果としてユーザーの心にポジティブな感情(安心感・心地よさ)という情緒的価値を生み出す。これからのデジタルマーケティングが目指すべきCXデザインのひとつと言えます。

デジタルマーケティングの最前線に立つ企業から寄せられる相談も、近年は「ユーザーの感情や情緒をいかに動かすか」という方向にシフトしています。以前は「データの収集」や「顧客の囲い込み(会員化)」そのものが目的化してしまうというような、企業本位の視点が強い傾向にありました。しかし、そうした数値目標の設計にするあまり、肝心の「ユーザーがそのサービスを本当に好きで使っているか」という視点が抜け落ちてしまうケースは少なくありません。「便利さ」だけでなく、「ユーザーに喜んでもらえる・愛着をもってもらえる体験」の実現に執着すること。それが結果として、企業とユーザーとの長期的な関係構築、LTVの向上につながっていきます。
しかし、情緒的価値の設計は、ユーザーの「不便」を取り除くことを起点とする機能性の設計とは違い、ユーザーの「心の動き」を起点に体験を組み立てるため、既存のフレームワークや過去の成功体験がそのまま通用しないケースが少なくありません。実際、「何をどこに相談すればよいかわからない」「以前うまくいったアプローチを試みたが、手応えが得られない」というお声を、聞くことも多くあります。新しいCXの地図を前に、羅針盤を見失っている、そんな状況が多くの企業の現実です。
【さいごに】
テクノロジーがどれだけ進化し、AIが正解を導き出す時代になろうとも、最終的にプロダクトを使い、ブランドへの愛着を深めていくのは「人間」です。私たちオプトは、この「機能性と情緒の調和」をビジネスの現場に実装し、企業のCXデザインの設計・開発をワンストップで支援するサービスとして「DIGGIN’ CX®」を展開しています。DIGGIN’ CX®が大切にしているのは、機能的価値と情緒的価値を対立軸として捉えないことです。ユーザーの課題を的確に解消する機能設計力は、「当然備わっているべき基盤」として内包されています。そのうえに、ユーザーの心を豊かにする体験の層を積み重ねる。この両立を大前提として、私たちはCXデザインの設計・開発に向き合っています。
今回紹介した桂花拉麺株式会社様やタリーズコーヒージャパン株式会社様のように、ユーザーインサイトの深い探究を通じて、デジタル接点のなかに「ときめき」や「安心」といった情緒的価値を宿らせていくこと。私たちオプトはこれからも、この潮流の先頭に立ちたいと考えています。より創造性あふれるプロセスを通じてユーザーに「ときめき」を届け、ユーザーと企業の長期的な関係構築を支援してまいります。

株式会社オプト|CX開発領域 上級執行役員:SVP|竹村 義輝
フィーチャーフォン時代からオフライン連動型モバイルサイトの構築を多数経験した後、スマートフォン黎明期に株式会社D2Cにて、スマートフォン専門の広告支援組織の立上げに従事。2017年11月より、株式会社インサイトコア代表取締役社長に就任。2023年6月、M&Aにより同社を株式会社デジタルシフトに吸収合併。2024年4月より、株式会社オプト マーケティング開発領域の上級執行役員:SVPに就任。2025年1月より、CX開発領域上級執行役員:SVPに就任。